読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

秘密結社と自己啓発セミナー

衒学

フリーメーソン、ご存知ですよね。特権的な*1石工たちの同業組合からはじまって、だんだん思想的・友愛的な団体に変化していったという背景をもつフリーメーソンですが、それはさておいて、世界一有名な秘密結社ではないでしょうか。なまじ有名なばかりに、地球温暖化から東西冷戦まで、あらゆる陰謀の首謀者にされるというたいへんな役目を背負っています。帝王に逃走はないのだ。
f:id:silver801:20170208195838j:plain
おなじみのマーク。セルジュ・ユタンはこれについて次のように述べている。

直角定規は物質に対する人間の作用と混沌の組織化の象徴である。これに対してコンパスは相対的なものの象徴である。すなわちそれは人智の到達することのできる最大の領域を測定するものである。またコンパスは宇宙のあらゆる表示の端緒である一点から生ずる二つの原理(コンパスの脚によって表示される)の象徴であることも注意すべきである。*2

世界とか加入者を測定して、それを変容させる技術を象徴しているということでしょうか。元が粗石を削って建物をたてる人たちの集団なので、象徴もいきおいこういうのが多くなるようですね。

入社式

現代ではどうなのか知りませんが、初期のメーソンは正統な秘密結社です。しかし結社の存在が秘密にされているということではなく秘密的な入社式をもつという意味で秘密結社なのです。
たとえばフリーメーソンの入社儀式のひとつを見てみましょう。

……入社希望の新人は、「反省の部屋」にいれられる。
部屋の内部は真っ黒に塗られていて、テーブルと椅子が一組、インク壺ひとつ、水差し一個、パン、硫黄と塩の入った盃がふたつあり、壁には鎌、砂時計、雄鶏(!)などがかかっている。新加入者はここで自己自身を深く振りかえる。
そして持っている金属物をすべてはぎとられ、左胸部と右脚を裸にされる。左の靴を脱がされ、首の周りにスカーフのようなものを結びつけられる。……

わたしたちはこの儀式の手順を知っているわけだから、この入社式は秘密的でもなんでもないと思いたくなります。
しかし、実際のところは違うのだとメーソンの幹部はいいます。
曰く、

門外者はフリーメーソン儀礼を仔細にわたって知りつくしているが、<<フリーメーソンの秘密>>は今まで一度も見抜かれたことはないし、また見抜かれることはできない

と。
つまり、この儀式において本質的なのは入社者が内面的に変化することであって、それが部外者にはわからない秘密なのだということです。
儀式の前後において入社者は一度死んでふたたび再生し、不可逆な心理的変化を被ります。ひとたび秘密を知ってしまったが最後、あとには戻れません。
f:id:silver801:20170208205646p:plain

自己啓発セミナー

ここまで世界史の教科書みたいな文章で進めてきたのにいきなり俗っぽいところに話をもどしますが、これとよく似た手口だなと思うのが自己啓発セミナー
自己啓発セミナーは、ビルの一室に集められたり合宿をしたりと形式はさまざまですが、ともかくトレーナーの指示にしたがって「本当の自分を見つけ」「可能性を開き」「自己の殻を打ち破る」セミナーのこと。要は洗脳して多額のお金を取る商法です。最近は下火になってきましたが、バブル前後にはなかなかはやっていたようです。
そしてこれが、めちゃめちゃ効く。どんな内容のセミナーなのかわかった上で行ってもコロッと人格改造されてしまうらしいです。

プログラムはどんな業者でもだいたい同じで、否定→救済の繰り返し。*3
たとえば、

20〜50人の合宿。
1.ネガティブ・フィードバック
グループを組んで、メンバーの悪いところを容赦なく指摘する。はっきり言えない人はトレーナーに徹底的に罵倒される。
この段階で泣き出す人も多い。自己否定のはじまり。

2.ボートの実習
全員が床にすわり、船が難破した場面をイメージ。5人乗りの救命ボートが一艘だけあって、それに乗らねば助からないことを告げられる。
(部屋は薄暗く、波の音がBGMとして流れ、集団催眠におちいる。)
全員が「助かりたい!」「生きたい!」と腹の底から叫ばされる。
その後、メンバーの中で生き残ってほしい人を5人きめる。その5人に入れなかったものは”死亡”し、生き残る5人に(いちばん大切な人への)メッセージを託す。

3.ダンス
トレーナーが「おや、光が見えます。ここは病院のベットの上です。あなたは奇跡的に助かったのです!」と言う。部屋が明るくなる。
全員が抱き合って感動をわかちあう(集団催眠にかかっているので)。
大音量で音楽がかかり、トレーナーの「さあ踊って!」という合図とともに、会場がディスコと化す。全員が感動のあまり踊り狂う。
*4

……文章で手順を説明されただけでは子供だましという感じですが、この儀式の参加者にとってはすべてが真実です。
秘密結社の入社式と同じで、
「儀式の前後において入社者は"一度死んでふたたび再生し"、"不可逆な心理的変化"を被ります。ひとたび"秘密"を知ってしまったが最後、後には戻れません。」
ということですね。
秘密結社的な思想が死に絶えることは永遠にないのでしょう。

錬金術 (文庫クセジュ)

錬金術 (文庫クセジュ)

*1:Freemasonryとは「義務を免除された石工」のこと。教会建築に携わることで特権をあたえられていた

*2:「秘密結社」(セルジュ・ユタン)より。他もだいたいそうです

*3:ここが秘密結社の入社式の「死んでふたたび再生し」と対応するわけです。老婆心ながら

*4:人格改造マニュアル」(鶴見済)より