アウト寸前がカッコいい
この世で何が怖いといっても、「バイトに遅れる夢」と「何をしでかすかわからない悪役」ほど怖いものはない。後者の代表的なキャラクターといえばノーマン・スタンスフィールド。「レオン」でゲイリー・オールドマンが演じた極悪麻薬捜査官だ。
※以下、映画「レオン」「イングロリアス・バスターズ」「パルプ・フィクション」についてのネタバレがあります
スタンスフィールドは、麻薬取締局の刑事であるにもかかわらず自らもまたドラッグ中毒だという矛盾をはらんでいる。麻薬の錠剤を噛みつぶし*1、ベートーヴェンを聴きながらショットガンを撃ちまくって、何人殺しても平気な顔をしている。これだけでも恐るべきキャラクターだが、スタンスフィールドのほんとうの怖さは、怒りの沸点がつかめないところだ。
この男はキレるべきときにキレないのに、キレなくていいところでキレる。
麻薬を横領していた部下を問いつめる時なんかは大声を出さない。しかし、
「部下を全員呼べ」という指示を出して
「全員?」と聞き返されたときは
「全員だ!!!」とそれはすさまじいキレ方をする。
なんというか身内にはいてほしくないタイプの人間だが、観客に「次に何をしでかすかわからない」という緊張感をあたえる意味ではすばらしいキャラクターだといえる。
この型のキャラクター造形・ストーリーづくりがうまいのが映画監督クエンティン・タランティーノだ。タランティーノ映画には「平穏の突然な破綻」という流れがよく見られる。「イングロリアス・バスターズ」なんかほとんどその繰り返しと言っていい。要はくだらない会話を長く続けたあとに突如として銃撃戦がはじまるあのスタイルのことだ。*2
タランティーノの出世作「パルプ・フィクション」からこのスタイルは確立されている。ダイナーでくだらない会話をしているカップルが銃を振り回して強盗をはじめる印象的なオープニングがまさしくそれだ。
「パルプ・フィクション」といえば、殺し屋二人組もスタンスフィールド刑事のようなキャラ性を持っている。サミュエル・L・ジャクソン演じるジュールス(右)は、ハンバーガーの話をしながら片手間に男を撃ち殺したかと思えば突然大声を出してキレる。かと思えばでたらめな聖書の一節を暗誦してみせる。
ジョン・トラボルタ演じるヴィンセント・ベガ*3(左)は、ビジネスライクな面があるかと思えば短気で、たとえどんな状況であっても人に命令されることを好まない。
ふたりとも「いい人」「行儀のいいカッコよさ」とはほど遠い人間だが、それでも魅力的だ。変にカッコつけてるキャラクターよりも、こういった人たちのほうが(映画としては)いいなあと思う。アウト寸前がカッコいい。
*1:
Gary Oldman - Leon - pills - YouTube
*2:ヘルシュトローム少佐を交えて人物当てゲームをするところなどがわかりやすい。
*3:トラボルタがいちばんカッコよく演じている役だと思う